澁谷:鳥取県では平成19年より「食のみやこ」を掲げていらっしゃるとのことですが、どういった取り組みをされているかお聞かせ下さい。
知事:平成19年、私が知事に就任した時、まず最初に考えたのが、鳥取県のこれからの戦略でした。食の活用等でまだ十分活かし切れていないところがあるとその時感じました。「大山(だいせん)、日本海」等の雄大な自然がある鳥取で新しい活力を作るとすると、山の幸、海の幸、里の幸がコンパクトな場所にあることが、小さな県としての強みだと思ったんです。
鳥取の食材のすばらしさが魅力になれば、地域の観光にもつながってくるだろうと考えました。
西部には境港という大きな漁港があり、ここには各地から水揚げに来る船団がやってきます。これによって、食品加工業が発達してきたという歴史があります。こういった経緯もあり食品加工業が鳥取の成長産業となりうると思いました。これを一つの県政課題と捉えて、「食のみやこ鳥取県」を掲げようと考えました。
実は、当時住んでいたアメリカからの帰りの飛行機の中で、パソコンに打ち込んだのが「食のみやこ鳥取県」。果たしてこれがどれだけ理解されるかと思ったのですが、「食のみやこ鳥取県」を掲げたことで、食の魅力への期待が高まりました。
澁谷:実際にはどういった取り組みをされているのですか?
知事:生産振興、流通サポートといった取り組みをしています。従来は地産地消が主だったのですが、それだけでは所得が変わらないので、地産外消としての販路開拓も大事だと考えました。
観光面でも「食のみやこ」を掘り起こすために、美味しい料理の振興を図るお店のPRをする「食のみやこ鳥取県」推進サポーターという制度を作りました。
今では約1300店舗ものお店に「食のみやこ鳥取県」推進サポーターに登録して頂き、鳥取県の食の魅力をPRして頂いています。
また、給食の地産地消率を50%から60%にするといった目標を掲げ、今では約80%まで高まっています。栄養士さんやJAグループにも協力してもらい、給食での地産地消率をあげることが出来るようになりました。
また、鳥取の食材を活かした商品のコンテストを行っており、この中からもヒット商品が色々と出てきています。例えば、鳥取和牛の牛すじ肉と、特産品のねぎで作ったカレーは、値段は少し高いですが、レストランで作る美味しさを味わってほしいという想いから、米子のシェフが商品化しました。こうした色々な展開をする中で「食のみやこ鳥取県」を定着させようとしてきました。
「食のみやこ鳥取県」は生産だけではなく、流通や商品開発、加工等といった複合的な社会活力基盤として、鳥取県でも10年くらいで定着し始めたと思います。
澁谷:知事は海外にお一人で行かれて、県産品のPRを積極的にされているということがあると伺いました。
知事:安心・安全・美味しさを追求すると、日本のモノであれば多少値段が高くてもという意識が強い。そういった意味では台湾を含め海外には、日本のモノに対する興味があるのではないかと思います。
台湾に行って驚いたのは、長芋が飛ぶように売れたことです。
澁谷:私も銀行員時代に香港にいましたが、香港でも長芋はカットして広東料理に使われていましたね。
知事:我が家でもカレーに入れたりしますが、なかなかそういった使い方はしません。日本のイメージだけで売りに行っても、向こうの興味と合わないことが出てくると思います。
それぞれの国によって食文化や、嗜好性が異なるので、それぞれに合わせた販路開拓が必要かと思います。世界のトレンドも変わってきていて、食を売り込むには面白い時期になってきていると思います。
また、日本では、単価のことを考えると関東圏、全国ネットに入れることが大事ですね。
例えば、「大栄スイカ」は関西圏では人気の高いスイカのブランドですが、関東圏ではあまり知られていませんでした。そこで、最初は、東京の電車のスイカカードにかけて、鳥取スイカというシールを改札に貼ってPRしました。
また、ドバイで鳥取の大栄スイカを3万円で販売したという記事が日本経済新聞に掲載され、東京でのマーケットが広がりました。
鹿児島、宮崎、岩手の前沢牛等のルーツは鳥取の和牛なんです。実は、鳥取県が日本で一番最初の牛の戸籍を作ったんです。つまり和牛の登録というものを始めたんです。これで和牛の改良事業がわが国でスタートすることになりました。そのルーツが鳥取ということで、鳥取では古くから、和牛の改良がおこなわれてきました。
かつて「気高号(けたかごう)」という種牛が鳥取に誕生し、その子孫が全国各地に広がりました。和牛には、鳥取の気高牛、そして兵庫の但馬牛の系統などがありまして、中国地方あたりが和牛のルーツとなるわけです。しかしその後、中国地方の和牛生産の担い手が増えないということもあって、圧倒的に他の生産量が多いわけです。その中でどうやって鳥取の牛をブランド化していくかが難しい。
そこで私たちは、まず「鳥取和牛オレイン55」というブランドを始めました。「鳥取和牛オレイン55」は肉本来のうまみが口いっぱいに広がる「とろける和牛」。美味しさの秘密は豊富に含まれた極上のオレイン酸なんです。オリーブオイルの主成分でもあるオレイン酸は「風味の良さ」と驚きの「口どけ」を実現します。
こういったことで、新しい牛肉の価値感を作ろうとしたんです。
今このオレイン酸の含有量の多い牛への関心がじわじわと増えています。
また、和牛の改良の成果でも種牛の良いものが誕生しました。全国の優秀種牛トップクラスの「白鵬85の3」、「百合白清2」の子牛を全国から買いに来ている。
また近々こういった牛の子どもが市場に出回るので、鳥取和牛に対する関心が高まると考えています。これから皆さんに注目してもらいたいですね。
澁谷:ブランド化をPRする機会になりますね。
知事:その他にも、 3回連続で特Aを取ったお米「きぬむすめ」 、美人といわれるほど、美しい白ネギ「伯州美人」、 砂丘ナガイモとイチョウイモとの掛け合わせでできている「ねばりっこ」、 若い農業参入者が作る「日南トマト」 、新鮮穫れたて、生でも食べられる大山のブロッコリー「きらきらみどり」、 スイカ本来の味と食感を極めるために一般的なかんぴょうではなくスイカの台木に接ぎ木して栽培した「倉吉極実スイカ」、 GI(地理的表示)登録された「鳥取砂丘らっきょう」「ふくべ砂丘らっきょう」など、 様々なブランド化を考えています。
是非ご賞味頂きたいと思います。
澁谷:平井知事はマーケティングのプロとして、社会の産業基盤をつくる「食のみやこ鳥取県」を推進されているように思いますが。
知事:カニの穫れる時期には「鳥取県」を「蟹取県」として名前を変えてPRしています。
実は鳥取県は、カニの水揚げ量が日本一なんです。昨シーズンは、一杯70万円でカニの取引が行われ、全国でも最高値となりました。今までとは違ったカニをアピールするため「特選とっとり松葉がに五輝星(いつきぼし)」というブランドの展開をしています。「五輝星」は鳥取の松葉ガニの内、大きさ、品質、型など厳しい条件をクリアした極上のカニで、昨シーズン全体の0.1%しか獲れなかった希少価値の高いカニです。
澁谷:知事がリーダーシップを取り、ブランド化を推進し、利益を出すようにしたことがきっかけで、若い人が農業に取り組み始めたりなど、農業従事者が増えてきているそうですね。
知事:鳥取県は農林水産省の政策に先がけて、農林水産業に参入する人の初任給程度を保証するような、研修受け入れ制度を作ってきました。
そういう意味では、全国でも一番就業しやすい地域だと思います。私が就任した頃は年間10人の新規就農がありましたが、今では100人、200人という規模での就業が常態化するようになりました。
澁谷:大変勉強になりました。ありがとうございました。
知事:砂丘からサンキューと取材にお礼申し上げます。