石川県 谷本知事にお話を伺いました。
澁谷:県産食材のブランド化やその発信のお取り組みについてお聞かせください。
知事:石川県は稲作が中心であり、大量に生産できる農産物となるとお米になりますが、地理的には日本の中心に位置するというメリットから多様な食材に恵まれています。県内では、少量多品目という特長がある各食材の付加価値を高め、ブランド化を進めることで、売上を伸ばしていくことが基本的な販売戦略となっています。
国内では、東京で生産者が自ら食材の魅力をPRする「いしかわ百万石マルシェ」を開催し、ホテルやレストランのシェフ、バイヤーの方々を招待し、販路開拓に取り組んでいますが、近年は海外にも販路の可能性を求めています。昨年は、ミラノで開催された「ミラノ国際博覧会」にも出展しましたし、今年5月には海外初となる「百万石マルシェ」を台湾にて開催し、台湾からの誘客拡大を図っています。
澁谷:石川県はルビーロマンや能登牛といった優れたブランド食材が非常に豊富ですね。
知事:『ルビーロマン』は、石川県が14年かけて開発したルビー色の葡萄です。粒が大きく、ジューシーで、市場に出して9年が経ちますが、今でも非常に高い評価を頂いています。市場に出た年の初競り価格は、1房10万円でしたが、今年の初競りでは110万円の値がつきました。
澁谷:1房110万円はすごいですね!
知事:昨年は、ウォール・ストリート・ジャーナルが取材に来て、「世界で一番高い葡萄」としてルビーロマンを取り上げて下さっています。ルビー色を出すための栽培管理は、非常に手間がかかりますが、市場では「このような赤色の葡萄は50年に一度出るか出ないかのもの」と高い評価を受け、市場関係者が待ち望んだ葡萄になっているため、生産者の方々には是非頑張っていただきたいと思っています。今年は初めて2万房を超えましたが、歩留まりが低く、今後はいかに歩留まり率を上げていくかが課題だと認識しています。
『能登牛』は、オレイン酸という美味しさ成分の含有量が日本一だと評価されたこともある石川県のブランド牛です。年間700頭ぐらいしか出荷できないため、市場には中々出回らず、「幻の肉」と言われています。能登牛が市場に出回るためには、年間1,000頭の出荷が必要であり、今後2~3年かけて1,000頭出荷を目指していきたいと考えています。
そのほか、『加賀しずく』という梨は、一般的な梨と比べてサイズが大きく、酸味が少なく非常に甘い梨です。水分が非常に多く、名前の通り「しずくが垂れ落ちるような梨」として、甘さを追求して作られていますが、この加賀しずくの開発にも16年の年月がかかっています。市場にはまだ出ておらず、来年市場に出る予定ですが、消費者の高い評価を得ると確信しています。
澁谷:他地域との差別化を図り、食材の付加価値を高めることが重要になりますね。ところで、地域経済の活性化には、金融機関(特に地方銀行)の果たす役割は大きいと思います。石川県ではどのような取り組みをされていますか。
知事:北國銀行とは「地域を元気にするために、共に手を組んで取り組んでいきましょう」と、地域活性化に向けた包括協定を締結しています。石川県には、機械、繊維、伝統、食品、ITの5つの基幹産業がありますが、地域経済の活性化のためには、県の将来を担う次世代産業を育てていく必要があると思っています。
具体的には、炭素繊維、ライフサイエンス、航空機といった分野に積極的に取り組んでいきたいと考えており、それらの産業振興を目的とした「いしかわ次世代産業創造ファンド」(300億円)を、県と地元金融機関が共同で造成しました。他にも、農林水産業を中心とした「いしかわ里山振興ファンド」など、様々なジャンルの新たな産業を育てていくという目的から、金融機関とのファンド造成には積極的に取り組んでいます。
澁谷:地域経済活性化には、移住を進め、人口減少を食い止めることも重要になりますね。
知事:はい。人口減少は石川県も直面している問題であり、地方創生の一環として対応していく必要があると思っています。昨今の高齢化社会を勘案すれば、自然減を上回る人口を増やすのは難しいと考えていますが、いかに子どもを増やして、自然減の数を減らせるかという取り組みをしています。
まず、未婚化・晩婚化対策の一環として、石川県では婚活支援に積極的に取り組んでいます。本来結婚というのは、男女の自由に成り立つものであり、 そこに行政が関与するべきではないという考えもあるかと思いますが、それでは少子化の流れは止まりませんので、今年から県といしかわ結婚・子育て支援財団、市町、企業が三位一体で婚活支援に取り組んでいます。例えば、結婚を希望する従業員を支援する「いしかわ婚活応援企業」を認定し、企業の壁を超えた出会いの場を提供するような取り組みを展開しています。
少子化対策の一環として、石川県が全国に先駆けて「プレミアムパスポート制度」というものを設けています。プレミアムパスポートとは、子どもが3人以上いる家庭に配布するパスポートですが、そのパスポートを持ってレストランやデパートに行くと、飲食代や商品の割引サービスを受けることができます。この制度による値引き分の負担は全て企業にお願いしていますが、参加店舗は2,400店舗を超え、金融機関も積極的に参画していただいています。
他には、3人目の子どもは保育料を無料にするといった仕組みも作っていますが、それを2人目からにすることで、より子どもを持つ家庭の経済的負担を軽くすることとしました。石川県としては「経済的な不安」、「精神的な不安」、「母子の健康への不安」、「仕事と家庭の両立の不安」に向け、取り組んでいかなければならないと考えています。
澁谷:4つの不安を解消することが、少子化対策に繋がるのですね。
知事:その通りです。そして移住については、石川県では年間600人の若い世代が他県へ流出しています。そこで、今年4月、全国で初めて、移住希望者をはじめ、学生や専門の知識、技術をお持ちの転職者など、あらゆる方々に対して移住と就職の支援を行う窓口として、「いしかわ就職・定住総合サポートセンター(ILAC:アイラック)」を金沢に、そして首都圏での窓口となるILAC東京を東京駅前に開設しました。
ILACでは、ハローワークや民間の人材紹介会社と連携して、企業とのマッチングや住まいの情報提供など、相談者からの就職、生活両面からの相談に対し、きめ細かな支援を行っているほか、移住希望者を対象としたイベントの開催なども行っています。おかげさまで、開設から5か月たった8月末の相談者数は約800人となり、銀座のアンテナショップに窓口があった昨年の4倍となりました。そのうち31人が県内に就職し、家族も含め47人の方に移住いただくなど、順調な滑り出しとなっています。
また、石川県の高校生は、高校卒業後、半数が県内企業に就職し、残り半数が大学進学をしますが、県内の大学に進学するのは4割で、6割が首都圏の大学に進学します。そのうち首都圏の大学に進学した学生で、大学卒業後に石川県に戻ってくる学生は4割です。大学生のうちに「石川県にも非常に魅力のある企業があることを教え、石川県に戻ってくることを促すことが大切」だと思っています。首都圏の大学に進学した石川県出身の学生には、在学中に間断なく石川県の情報を提供し続け、就職時期にも石川県の企業から学生にアプローチをかけていく必要があると思っています。また、県外から来ている学生を石川県の企業に就職させることも大切だと思っており、そのためには、若い方々が希望を持って働くことができる職場を提供していく必要があります。
澁谷:石川県の今の話題といえば、何といっても北陸新幹線です。観光や産業など、大変大きな効果があったとお聞きしていますが、知事のご感想をお伺いします。
知事:北陸新幹線金沢開業は、40年来の悲願でしたが、その開業効果は私たちの予想をはるかに上回りました。開業前、JR の方からもこれまでの2倍の方がお越しになると聞いていましたが、結果は3倍増でした。石川県はすばらしい資源、財産、文化に恵まれているものの、遠隔地であるため行き辛いという心理的なネックがありましたが、北陸新幹線の開業によりそのネックが解消されたのです。北陸新幹線は東北新幹線との乗り継ぎが良いことから、東北からの観光客も非常に多くなっています。また、北陸新幹線の開業と同時に日本海クルーズも人気が出ており、「レール&クルーズ」という言葉が定着しているほどです。全て首都圏からのアクセスが良くなった恩恵ですが、ストロー現象等マイナスの影響も起きていません。50を超える県外の企業が石川県に支店や営業所を設けており、オフィスの空室が大きく減少しました。
北陸新幹線が、石川県の地方創生に大きな役割を果たしていますが、今後も石川県が持ち合わせている資源やおもてなしに磨きをかけ、発信していくことが大切であると考えています。
石川県には多様で豊富な食材があり、調理する技術として匠の技があり、料理を盛り付ける食器も素晴らしい伝統工芸品です。また、戦争で被災していない城下町がそのままの形で残っており、歴史や景観を意識した街並みを今後どのようにアピールするかも考えていく必要があります。高度経済長期には車が通らないという点がデメリットでしたが、今では歴史や伝統を承継する様々な観光名所が駅から近くにあり、歩いて回れることから非常に人気があります。今後も、様々な面から石川県の地方創生に向けて様々な取り組みを展開していきます。
澁谷:本日は貴重なお話をありがとうございました。