創業93年。「新鮮・豪快・郷土の味で、お客様に満足を」が企業理念です。
■どのような経緯で創業されたのでしょうか?
今年で創業93年、私(現社長)で6代目となります。
身近に良質な漁場があり、自然に網元に。そして仲買から魚屋へと、時代と共に変化していきました。
稲取で伊豆名産のキンメダイやトコロテンの原料である海藻テングサ等が豊富に取れましたので、地元の魚への想いが強いです。
■ずいぶん長い歴史がありますね。地元への強い想いも感じます
網元として魚一筋で生きてきた初代創業者「鈴木留吉(とめきち)」の”想い”を受け継いで、提供する食材も私達の振る舞いも常に新鮮さと豪快さがなければならないと思っています。
さらに郷土である”伊豆”にちなんだものでないと根本がなくなってしまいます。
この”想い”と伝統を守りつつ、時代に合った方法で未来に伝え続けること。
お客様に大いに満足して頂くこと。それが私達の理念であり使命です。
■現在はどのような事業を展開しているのでしょうか?
現在、食品メーカーとして伊豆稲取の本社を起点に富士箱根伊豆国立公園内に16施設を多角的に事業展開しています。
16施設とは、販売、外食、通販、商品開発、食品製造、物流拠点等の施設です。
■稲取駅前に看板がありました『網元料理 徳造丸』も御社ですね
そうです。地元の方、観光客の方にご利用いただいている網元料理の料理屋です。
稲取産天草の一番煎じと、伊豆の海洋深層水を使用した無添加の「ところてん」です。
稲取ではところてんに黒蜜をかけて食べます。食文化を含めて提供したいと思っています。
■御社の商品についてお聞かせください
天草の生産量は静岡が全国2位ですが、その天草を使用したところてんを作っています。
静岡県内で天草が採れるのは伊豆半島だけ。
その中でも創業の地である伊豆稲取の稲取産天草(てんぐさ)を買い付け、その一番煎じだけを使用しています。
水は伊豆の海洋深層水を使用し、無添加で作っています。
2017年に稲取の最後の海女さんがいなくなってしまいました。
稲取産の天草の在庫が少なくなっているので、現在は伊豆産の天草をブレンドしたトコロテンの販売を予定しています。
伊豆は日本有数の産地ですので各産地の良さを取り入れ、コリコリ食感(歯ごたえ)、香りを残せるように日々研究しているところです。
稲取ではところてんをさいの目に切り黒蜜をかけて食べる食文化があります。その食と食文化や、トコロテンの突き棒で突く昔からの体験や、低カロリーでヘルシーな面も含めて提供したいと思っています。
私もそうですが、旅行に行ったら旅行に行った先々の土地にちなんだものやそこにしか無いものを食べたいと思いますよね。そういう希少性も大切にしていきたいです。
失敗がない、簡単、手軽、時短、それでいて本場網元料理の味。これが「秘伝の煮汁」です。
■『秘伝の煮汁』、面白い名前の商品があるんですね?
一昨年の準グランプリ商品です。
うちの料理屋の板場で代々煮つけている味を市販化したものです。
失敗がない、簡単、手軽、時短で本場の網元料理の味が再現できます。
郷土の味として、地域認定商品を頂いており、甘くこってりした味が特徴です。
好きな魚の切り身を入れて、水1、秘伝の煮汁1、沸騰して10分で出来上がりです。
魚だけでなく、実はほとんどの煮物に使えますよ。
また、トンテキや冷ややっこのたれ、ディップソースとしても使用可能です。
地元でも魚は食べなくなってきています。煮物なども同じです。
忙しい、地元の若いお母さんの購入率が増えてきました。
時短と利便性と本格的な地元の味として、地元の方々にもっと食べてもらいたいです。
現在は、限定にて地元スーパーで市販用として販売しています。
「家で食べられれば良いのになぁ…」。そんなお客さんの声から生まれた商品が「サザエ御飯」です。
■たくさん商品がありますね。いろいろお聞きしたいところですが、今年のフェアでグランプリを受賞した商品『サザエ御飯』についてお聞かせ頂けますか?
稲取産のサザエは潜れば採れるほど豊富でした。
サザエ御飯は料理屋で出しており、お客様が「美味しい!美味しい!」と言ってくれています。「家で食べられればいいのになぁ…」というお客様の声から生まれた商品です。
何事も料理屋のお客様の声を気にしています。お褒めの言葉もクレームにもヒントがあると思っているからです。
中小企業なので、お客様の声を聞いて、それを商品に反映して、小回りを利かせてやっています。
単身世帯や老夫婦の方が増えているせいでしょうか、サザエ御飯は温めるだけの手軽な商品のため、通販で出荷が増えて、今では製造計画を変えるほどになってきました。
工場が大変ですよ(笑)。
伊豆ならでは、徳造丸ならではの独自性にこだわった商品でして、板前のプロがいて、製造工場があり、開発企画のスタッフがいたからこそ、生まれた商品です。
うちが魚屋だけだったら、干物を作るくらいでで終わっていたと思います。
■サザエやサザエ御飯は郷土料理として昔から食べていたのですか?
田舎ゆえ娯楽がないので、私は子供の頃、朝はカブトムシを取りに行って、その後、海に潜って、持参のしょうゆをかけてサザエのつぼ焼きを食べていました。
つぼ焼きや炊き込みご飯は自分にとって生活の一部でした。
漁港の近くに住む人たちは皆そうだと思いますよ。
■地元サザエの特徴はありますか?
サザエ漁は毎年4月から6月頃が解禁です。
あがりたての生で食べられるサザエを、柔らかさと肉厚さを大切にすぐに釜揚げして、急速冷凍するので、サザエ御飯のサザエはやわらかく風味豊かなのが特徴です。
生のままで冷凍すると身は小さくなり、同時に固くなってしまうので、水揚げ後すぐに釜揚げしたほうが良いのです。
春先のサザエが一番やわらかい。
普段皆さんが食べている刺身のコリコリしているイメージとは異なります。
味付けは板前こだわりの出汁などを独自にブレンドした秘伝のタレを使っています。
ごぼうがシャキシャキ感を出していて食感が良く、食が進みます。
■1食640円(税別)。本場のサザエ御飯がこのお値段とは安いですね?
サザエを安い時に買って、加工するからです。
網元直営、魚屋直営で高いものばかりだったら良くないと思いませんか。
現在は、サザエ御飯に続き、金目鯛御飯・しらす御飯も新発売しましたが、今後はアワビご飯も考えており、シリーズ商品にしていきたいと思っています。
■ターゲットはどのような方ですか?
最近はギフトの需要が減っています。
一方で、個人で取り寄せして個人(自分)で食べるお客さんが増えています。
自分もしくは家族(娘や親)へのおみやげが多い印象です。
ターゲットは、「家で美味しいものを簡単に食べられればいいのになぁ…」と思っている方々。
利用シーンは、稲取まで来なくてもちょっと家で食べられる、家族が集まる時に家族団欒で食べてもらうなどを考えています。
■おいしい食べ方の工夫はありますか?
味付きなので、このまま温めるだけ大丈夫です(笑)。
■そうですよね、プロが作っていますもんね
素材の良さですよ(笑)。魚屋素材と板前の味。シンプルに食べてください。
通販のお客様はうちの味を知っています。信頼関係が出来ていますので、我々も期待を裏切らないようにしています。
サザエ御飯の発売は今年の春先頃です。
通販でお得なおまとめセット(5パック)でお求めやすくしたら、予想以上の受注がありました。
頭の中で仮説を描いてやってみたところ、成功しました。
通販のお客様はうちの味を知っています。
信頼関係が出来ていますので、我々も裏切らないようにしています。
「飲食店で食べる」、「美味しいからお土産として直売店で買う」、「家で食べておいしいから通販で買う」、さらに「インターネットで情報発信し通販で買う」というサイクルが出来ています。今後はここに満足せずに、さらにお客様満足を追求したいです。
すべては信頼関係ですから、味は裏切らないようにしています。
これは自社の通販サイトだからできると思っています。
例えば、楽天で知らないお客様を取り込もうとしても無理だと思っています。
一般のお客さんは、伊豆半島への旅行は、1年に1回あるかないかといったところです。
だから、あの時伊豆で食べた美味しさを通販で買えると良いと思っているはずです。
そのため、うちの通販のお客様は、東京、神奈川、静岡の方が約7割で、お客様のほとんどは観光で訪れた方々です。
昔は地元のお客様が贈答で購入して発送することが多かったですが、地元の人口が減ってきて様子は変わりました。
■サザエ御飯の通販での反響はいかがですか?
有難いことに製造が追いつかないくらいです。
機械化も考えましたが、うちは手作りが売りなので、機械化するのはやめました。
魚屋素材と板前の味と、そこが大手食品メーカーさんとは違うところです。
商品が売り切れて無くなってしまった時は、「○○(発送時期)から発送します」とまずは注文を受けつけます。
単に商品が「無い」とは言いたくないので、通販サイトは売り切れ表示にした上で、電話ではお客様に事情を説明し、注文を受けつけるようにしております。
現在は、作っては出して、作っては出すような状況です。
今後は、全社的に製造計画や保管場所も考えて、みんなで話し合ってやっていきたいと思います。
■『サザエ御飯』、とても人気がありますね?
最近は単身世帯が多く、家で料理を作らない比率が高まってきました。
時代の変化は激しいですが、ちょうどそのような時代に合ったからこそ売れているんだと思います。
デパートの催事や地方銀行フードセレクションに出展した時がありましたが、我々のキャパシティを超えてしまうので、そのような出店は控えるようにしました。
自社直売店での販売、自社通販に極力特化しながらやっています。
ただし、うちの手作りを理解してくださるお客様とは一部取引しています。
秘伝の煮汁も地域性を大切に、一部の百貨店さんと地元のスーパー様だけは理解頂してくださったので置いてもらっています。
■戦略的に販売しているんですね?
出来ないことはできないと言っているだけです(笑)。
■自社のチャネルで販売すれば最も利益が取れて、良いはずですよね?
拡販すれば、色々機会があるとは思いますが、価値が薄れると感じてしまいます。
無理に身の丈を超えない感じが良いのではないでしょうか。
今の消費者の方の目があざといので、ちょっと変わったなと思われると信用を無くしますね。
「食べる」、「売る」、そして「+α」の複合店舗。富士、箱根、伊豆エリアでのドミナント出店を考えています。そして、東京、や海外にもいずれアンテナショップを作りたいという希望、夢があります。
■今後の展望、社長の夢をお聞かせ頂けますか?
今後の事業戦略ですが、うちは東海岸の稲取が発祥で、南は下田、北は熱海、箱根まで一体に展開しています。
富士、箱根、伊豆は非常に恵まれていると思っています。
都心から近く、電車で一本で来ることができ、外国人も知っている富士山もある恵まれた土地です。
そのような富士、箱根、伊豆国立公園のエリア内でドミナント出店の強化を考えています。
ここでなければ食べられないものを提供していきたいと思っています。
一方で、相反するかもしれませんが、アンテナショップ的な店舗も一つ良いのではないかと考えています。
そのアンテナショップで当社を知っていただき、お客様に私どもを知ってほしいと。旅行で来られた時にお立ち寄り頂いても、忙しい日常に戻ると忘れられてしまいますしね(笑)同時に、ここの本店に行きたいと思うような仕組みを作りたいと考えています。
インターネットをフル活用して情報を発信し、加えて、東京、上海、シンガポールなどのアジア圏にもいずれアンテナショップを作りたいという希望、夢があります。
まず伊豆半島、富士、箱根、伊豆エリアからですが。
また、「『食べる』『売る』、そして『+α』の複合店舗」を計画しています。
例えば、地元料理を食べて、お土産を買えて、そして工場見学も出来るような店舗を展開しています。
「富士箱根伊豆エリアに来たら徳造丸に行って食べなきゃね」と言われるような店舗を目指していきたいと思います。
道の駅は広すぎると思いますので、小さいけれど、伊豆らしくて良かったなと思える店舗にしていきたいです。
■富士、箱根、伊豆エリアは魅力的な反面、ライバルが多いと思いますが、勝てますか?
うちには創業93年の歴史と信用があります。
仕入、開発、製造、販売といった機能を、川上から川下までを自社で持つ強みや、伊豆東海岸に構える店舗網、90年を超える歴史と信用、開発力を持つガラス張りの自社工場、魚屋素材と板前の味、手作り、都心や富士山も近い伊豆の地の利、社員教育に熱心で郷土愛の強い多くのスタッフなど、これらをそろえているのはうちだけで、この強みを活かしていきたいです。
希少性は売り手の満足ではないでしょうか?希少性の高い秘伝の煮汁をぜひ人手不足で困るスーパーや外食などの方々に使って頂きたいです。そして、お客様には徳造丸の味を思い出して、また伊豆に来てもらいたいと思っています。
■最後に、全国の食品バイヤーの方々に何かメッセージはありますか?
秘伝の煮汁をぜひ。どこも人手不足じゃないですか。
シルバー、高校生のアルバイトでも失敗せず、短時間で煮物ができます。
今後は、煮汁を使った料理教室をやろうと思っています(豚の角煮、金目鯛の煮物等)。
外食レストラン、スーパーの惣菜部門、お弁当店などで、伊豆の郷土料理や伊豆フェアでも良いのでぜひ使って頂きたいと思います。
■外食産業やスーパーも人手不足である一方で、個性ある商品を求めていますよね?
あるスーパー様で、お客様から言われたので、ぜひ取り入れたいと問い合わせがありました。知らない土地のお客様がそのように言ってくださったので嬉しかったです。
以前コストコに行ったら、都内高級料理チェーンさんの焼き肉のたれが置いてありました。
それを見て、私もこの有名店あの美味しい焼肉を思い出しました。
こういう部分で弊社を知ってほしい、思い出してほしいと考えています。
希少性は売り手の満足ではないでしょうか?
煮汁はいろんな局面で提供して、徳造丸や伊豆を思い出してもらいたいと思っています。「また伊豆に行きたいね」と。
■株式会社徳造丸■
静岡県賀茂郡東伊豆町稲取 2185-1
徳造丸公式トップページ:https://1930.jp/