■まずは御社の歴史と事業についてお聞かせ頂けますか?
うちは大正12年に魚屋を創業しました。
寿司を中心に日本料理を出しています。
昔は近くの観光会館で結婚式をすることもあったことから、仕出し料理や各種弁当もやっていました。
また、接待客などの自宅用のおみやげものとして、太巻寿司や万枚漬けも作っています。
太巻寿司は、1本で1合の白米を使用しているので、十分食べ応えある商品です。
二人で1本食べれば十分かもしれません。
以前、三越伊勢丹さんから声がかかり、本店で2度ほど催事に参加しました。
よく売れましたよ。
■万枚漬けは初めて聞きましたが、いわゆる千枚漬けのようなものですか?
万枚漬けは、「千枚漬けの10倍美味しい」とお客様に言われたことをきっかけに名前をつけました。
三越伊勢丹さん、高島屋さんでも売らせてもらったことがあります。
これら太巻寿司や万枚漬けは接待等のおみやげとして、ご主人様が奥様のためにご自宅に持ち帰り、翌日食べて頂く商品です。
奥様にも喜ばれるし、うちの売上も上がります(笑)。
伊豆山海おぼろ寿司は、「温故知新」の商品。故きを温ねて新しきを知る。
いろんな人の声を聞いて、ここまで出来ました。
■今回準グランプリを取った伊豆山海おぼろ寿司(以下、おぼろ寿司)についてお聞きしたいと思います。女将は、なぜ、おぼろ寿司を作ったのですか?
うちは板前を抱えておりますが、板前は職人ですので、板前が寿司を作るとお金がかかってしまいます。
パートでもできる寿司は無いかということで、おぼろ寿司にしました。
私の母の実家の方(修善寺の方)には、「原保寿司」という、型抜きしたお寿司があります。お盆やお彼岸の時によく作っていました。
型抜きでは、中身がばらけてしまうので、折箱に入れた田舎ばら寿司にしました。
三島信用金庫の商談会に出展していたら、たまたまキヨスクの方に声をかけられました。それが商品開発のきっかです。
おぼろ寿司は、元は田舎ばら寿司であり、「温故知新」の商品です。
つまり、「故きを温ねて新しきを知る」。
昔のものを今風にアレンジすると、年配の人たちは懐かしく感じます。
一方の若い人たちは昔を知らないので新しいと感じます。
これがおぼろ寿司です。
■このおぼろ寿司の包装紙はお寿司とは思えないほどカワイイですね
元々うちには包装紙は1種類しかありません。
同じ包装紙だと中身がわからないので、娘が書いた絵を包装紙にしてみました。
若い子をターゲットにするために、カワイイ包装紙にしました。
器の大きさ、中身のバランス等、試行錯誤して商品を作ってきました。
商品(おぼろ寿司)を作っては、商工会へ持って行き、職員さんに食べてもらいました。そして、感想をフィードバックして欲しいと言っては、職員さんの声を聞いて、商品をどんどん改良してブラッシュアップしてきました。
いろんな人の声を聞いて、ここまで出来ました。
木製のスプーンを探すのに4ヶ月かかった。
包み紙を開けてみてください。
中には箸セットが入っていますが、最初は、箸と紙おしぼりだけでした。
以前、キヨスクでおぼろ寿司を買ったお客さんから、「キヨスクで『子供に食べさせるので、スプーンをください』と頼んだら、アイスクリーム用のスプーンを渡されて、もっと食べにくくなった」という声を聞きました。
そのお客さんの言葉がきっかけで、このスプーンを入れるように改良しました。
ただし、プラスチックはうちの商品のイメージを損なってしまうので、木のスプーンにしました。
この木製のスプーンを見つけるまでに4ヶ月もかかりましたよ。
卸値が決まっていて高くつきますが、外国人の方々もお箸をうまく使えないので、スプーンを入れることにして良かったと思っています。
■箸セットだけでもだいぶこだわっていますね
紙おしぼりも薄いおしぼりは嫌でした。
うちの高級感を損ないたくないので、製紙会社のオリジナルの紙おしぼりを使用しています。箸セットの袋には、おしぼり・スプーン・箸を自ら手で入れてセットしています。
また、この弁当箱もオリジナルです。
うちは昔からお弁当は経木の折でしたが、経木は材料が間に合わないとのことなので、紙製品にしました。
また、お弁当の中にあるフィルム最初はありませんでしたが、ふたに紅しょうがの赤色が付いてしまうので、改良してフィルムをつけるようにしました。
■食材の方も何かこだわりがあるのですか?
漬物のしょうがは着色しているのではなく、しその葉を大量に揉んで赤くしています。
水かけ菜は御殿場と小山から2月から3月の間に400㎏まとめて買って冷凍にしています。
干し椎茸は2日間かけて水で戻して、1日かけて煮るので、計3日間かかります。
最も手間がかかるのはこの椎茸です。
たまごそぼろは簡単です。ちょ、ちょ、ちょっと、やればできちゃいます(笑)。
ただし、お酢を入れてひと工夫しています。
保存力が高まり、焦げ付きがなくなるからです。
桜エビは一度素揚げをしてから甘辛に仕上げます。
これだけ手間とお金をかけて870円は絶対に安すぎます(笑)!
■全部地元の食材ですよね
もちろん。それが地域活性化ですよ。
ただし、お米は、あきたこまちを使っています。
コシヒカリは、今すぐ食べる分には美味しいですが、時間が経つとねっちょりしてしまいます。
寿司米には向かないのです。数パーセント入れる分ならば良いのですが。
これはアンケートを取った結果でもあります。
おぼろ寿司は、お弁当だから時間が経っても美味しいものでなければならないと思っています。
お客さんにとって「良い」ものが良いのです。食べるのはお客さんだから。
■地元の良い食材を使っているのはもちろんですが、女将がお客さんの声を聞いて作っているからこそ、より良いものが出来て、売れているんでしょうね
自分が作って、「これが良い!」と思っても、常に自分が食べているわけではないですよね。食べるのはお客さんですから、お客さんにとって良いものが良いんですよ。
お客さんの声を取り入れて、常に改良しています!
■今、取り入れようとしているお客さんの声は何かありますか?
今、まさに取り入れようとしているお客さんの声は、「包装紙のロゴマーク(ふじのくに新商品セレクションの最高金賞マーク)を取って欲しい」という声です。
キヨスクでおぼろ寿司を購入して、新幹線内で食べて下さったお客さんが、包装紙がカワイイから自宅まで持って帰って家で使いたいので、このロゴマークがいらないということです。
それを受けて、ロゴマークを包装紙内に印刷せずに、不要であれば剥がせるようにシールにして貼ろうと考えています。
これで完成品というものがいつできるのだろうかと思っています。
自分のPRだけでなく、市内全体のPRもしています。
自分でだけでなく、みんなで良くなりたいのです。
以前は、おぼろ寿司の中に、折り込みにして、伊豆の国市のマップも入れていました。
今度は、伊豆半島の世界遺産とジオパーク、またオリンピックに関係した折り込みを入れていきたいと思っています。
そうすると地域の活性化にもつながりますし、誘客にもなります。お互い宣伝になります。
自分だけが良くなっても良いのですが、それよりもみんなが伊豆に来てくれて、みんなが良くなって、そして、また、だるまにも来て貰えたら良いなと思っています。
ターゲットは20〜30代の女性。でも実際に買ってくれるのは…、実は年配の女性です。
■おぼろ寿司はどんな人に食べてもらいたい商品ですか?
ターゲットはインスタ映えとか情報発信する20代から30代の女性と決めていました。
「お茶目女子に大人気」とポスターにもキャッチフレーズを書いています。でも実際に買って下さるのは年配の女性です。
なぜかと言うと、お土産として、自分だけでなく、自分の娘とか、何とかさんにもあげたいということで買ってくれるのです。
購入者は、年配の女性ですが、ターゲットはあくまでも20代から30代の女性ということです。
一方で、男性の方はおぼろ寿司よりも助六寿司を買いたくなるらしいです。
理由はこぼれるからとのこと。
おぼろ寿司は、駅弁として自分で食べる以外に、手土産や会議の弁当としても重宝されています。
駅弁がすごいのは発信力があること、宣伝効果が高いこと。
「駅弁がすごい!」と思うのは発信力があること、宣伝効果が高いということです。
たまに京都に住む妹が駅弁を買ってきてくれます。
また、横浜に住む娘がしゅうまい弁当の駅弁をおみやげとして持ってきてくれます。
京都や横浜の駅弁がここ伊豆まで届き、情報を発信してくれるのです。
同じように、うちのおぼろ寿司は、当店(要予約)でも買えますが、駅で買ってもらえれば、電車や新幹線に乗って、遠方まで行き情報を届けてくれます。
新幹線の中で折り込みチラシを見て、「世界遺産に行きたい」と思ってくれる方がいます。おみやげとして家まで持ち帰って頂ければ、自宅でもチラシを見て頂けます。
新幹線内でうっかり包装紙を置き忘れると、次に座る人が見てくれることもあります。
そのような形で実際にうちのお店に来てくれる人もいます。
駅弁は発信力がありますので、遠方からもお客さんが来てくれます。
当店だけで販売していたら、お客さんは地元の人だけになってしまうところです。
■今回のフェアでもだいぶ情報発信出来たのではないでしょうか?
相当、いろいろなおばさんたちに来て欲しいと、案内をまいています。
1カ月以上チラシを配っていました。お店でもフェアを宣伝しました。
お客さんには、「うちに票に入れてよ」って何度も言いましたし。
うちに票を入れるだけでなく、「フェアに来てほしい」、「他の商品も買ってもらいたい」と思っていますから。
会場にお客さんが来てくれて、気に入ったものを買ってもらえれば有難いですよね。
ちなみに、バイヤーは自分で声をかけて4社に来てもらいました。
イトーヨーカ堂、マックスバリュー、アピタ、マルイチの方々です。
「商談もできるからぜひ来てちょうだい」とバイヤーの方に直接伝えたところ、「女将がそういうならば」ということで来てくださいました。
頑張っている人を応援したい。
サッカーJ3のチームでアスルクラロ沼津があります。
私はこの駅弁の発信力を活かして、応援しています。
おぼろ寿司の駅弁の中に、試合案内のチラシを入れて包んであげるのです。
試合案内のチラシを駅弁の中に包んでしまえば、嫌でも持って行ってくれます。
私としては、手間で嫌な作業ですよ。
でもせっかく頑張っているのだから、何かやってあげたいと思うのです。
だからおぼろ寿司の駅弁の中にチラシを入れてあげました。
お互いにとって良いことですよね。
だから自分だけが良くなるのではなく、周りも良くなるようにやっています。
うちも駅弁を買ってもらえれば、商人さんたちに材料など注文ができます。
でも、うちのおぼろ寿司が売れなかったら、商人さんとの取引も終わってしまいます。
買ってもらえてなんぼですからね。
田舎のおばちゃんたちが良いものを持っている。良いものを引き出してあげたい。
■最後に、今後女将がやりたいことをお聞かせ頂けますか?夢や目標などありますか?
まずは、おぼろ寿司で農林水産大臣賞の受賞を狙っています。
自分の中ではもう取っちゃっているんですけどね(笑)。
そして、私がしたいこと、それは、田舎のおばちゃんたちの良い商品を引き出してあげること。
田舎のおばちゃんは良いものを持っていますが、それをどうやって発信・契約したらいいのかわからないのです。
例えば、商談するにも、どうしたらいいのかわからない。
企業へ自分から行くのにも勇気がいる。
商工会を使えば良いですが、それもわからないのです。
商工会は平等に情報を流していますが、それを見逃しています。
意識していないから気づかないのです。
本当は、優秀な商工会の職員さんを使うことは一つの手段だと思いますが。
おばちゃんたちの良いものは、世に出てくれば良いのです。
世に出て、人の手が触れれば、何かが起きます。
今後は、このような話をする、ビジネスセミナーの講師もやりたいと思っています。
■株式会社だるま
伊豆の国市古奈77
公式ホームページ:http://www.izunokuni-daruma.com/index.html